そこには愛はなく、狂気もなく、情もなく、首だけがあった。【首(2023)/映画】

マージでなんにもねえ〜〜〜〜。

『狂ってやがる。』

北野武監督最新作『首』見てきました。面白かったです。面白かったっていうか……これは……なに!? 私は何を見せられているの!? と混乱爆笑混沌の2時間11分。最高でした。

 

ネタバレします。

 

戦国時代。織田信長は謀反を起こした荒木村重に大激怒。何がなんでも荒木を探せ、手柄を立てた者には跡目を取らせるとまで言い放ち、明智光秀羽柴秀吉をはじめとする武将たちは熱心に荒木探しを始めるのでした…………みたいな話ではあった。たしかにそうだった。

 

なんかもう、物語の温度が変なんですよね。事前情報として得ていた通り、北野監督がかなり「戦国時代の男色、衆道」に興味を持ち、その辺りを軸をして物語を組み立てているというのは理解できるんですけど、男同士のあれこれに期待して見に行くと完全に火傷します。気を付けろ! これは後述しますが、北野武監督のファンガールとして長い年月を過ごしてきた私としては、「ついにこれを描くようになったか〜」という謎の感慨がありました。いやあ。すごいですよ。

 

まさかの恋に生きる男荒木村重、ひとりだけ真面目に「戦国武将」をやろうとしているせいで逆に意味不明になっている明智光秀、「俺はこういうのよくわからん」と先に言い出すことでしっかりとした軸を持つ羽柴秀吉尾張弁で捲し立てたり性的なシーンもバキバキにこなす「「「愛」」」を履き違えた男織田信長、兄者大好き!羽柴秀長、常にちょっと疲れている黒田官兵衛、異常にイケてる徳川家康、監督の愛を一身に受けている服部半蔵……登場人物大体こんな感じかな? 抜けがありそう。あ、自分以外の全員を愚か者だと思っている千利休もよかったな。あと裏主人公の木村祐一中村獅童(役名失念ごめん)。

 

たしかにこれは男と男の物語で、ホモソーシャルの煮凝りのような空間で好いた惚れたをやってみたり、「これは愛情の裏返し」というとんでもねえ発言が飛び出したり、劇中で動物に危害は加えられていないものの明智光秀には危害がめちゃくちゃ加えられていたり…と思い出すだけでもう、ここはコント戦国時代。ただ思っていたほど架空の戦国時代ではなくて、個人的に押さえてほしいところ(光秀が村重を選ぶはずないだろ利三優先だろ)(淡々と無限影武者を繰り出す家康)(仲良し陣営っぽい羽柴三人衆もそこそこ不穏)(家康は醜女が好き!!!!!!!!)はきちんと押さえられていて、北野監督はかなり事前リサーチを色々されたのだろうな〜とは感じました。これよりもっと無茶苦茶な架空戦国時代、いっぱい見かけるご時世なので…。

でもあれこれ端折ったり、そことそこと繋げるんだ!?(メインになる三角関係)とかは普通にびっくりしたので、見る前にざっくりでいいから戦国時代の人間関係とか検索して行くと見易いかもしれないなとも感じました。

 

はい。日記のタイトルに戻ります。ここには、『首』の世界には何もない。愛もない。忠義もない。情けもない。そして『狂ってやがる。』という割に狂気もない。何もないんです。驚くほどに何も。何もない世界で、みんなが『信長の跡目』という空約束のために空回りしているの、「コント戦国時代だ!」と思うとワハハ!って笑っちゃうんですけど、冷静に考えたらすごい怖くないですか? 怖いよ。

 

さらに言うと、北野武監督がこの世界をこういうふうに構築したっていうのにすごい意味があるなって思って。これは私解釈なので異論は認めますがぶつけないでほしいんですが(議論はしたくないので)、北野監督といえばホモソーシャル映画を得意とする監督の代名詞みたいなところがあるじゃないですか。『ソナチネ』で孤独な男の一瞬の輝きと破滅を、『BROTHER』で国籍も年齢も超えた男と男の愛を(そしてその愛のために死ぬのは冷蔵庫の女ではなく冷蔵庫の男である)描き続けていた北野監督が、「いや…ホモソってそんな良いものじゃねえんじゃないか…?」と気付いたのかな? と感じたのが『アウトレイジ』三部作でした。一作目はソナチネBROTHERに通じるホモソのキラキラ感があるんですが、ビヨンド、そして最終章と進むにつれて【ホモソーシャルという絆】の輝きはどんどんなくなっていく。濁っていく。最終章のラストシーンでは、【ホモソーシャルという絆】なんてものは死んだと言っても過言ではない。(大友・市川の関係にはホモソーシャル以外の言葉を与えたいのでちょっと今回は言及しません)

そうして、満を持しての『首』です。羽柴秀吉ビートたけし)が言う通り「よくわからん」がきっと正解で。そんな中どこにも存在しない愛を求め続ける荒木村重とか、愛が欲しいのか出世したいのか信長を殺したいのか訳分かんなくなってる明智光秀とか、全員に愛されたいけど全員を殺した〜い!な織田信長とか。もう好きにしてくれよ。っていう。ね。面白いなぁ。

面白いといえば今作にも『冷蔵庫の女』が存在しないのは素晴らしかったですね。あと私は先述した通り家康醜女好き説がめちゃ好きなので(柴田理恵さんは醜女ではないですが!!!!)その辺採用されててニコニコしました。

 

そこには首しかなく、首にすら価値はないのでした。

そういう映画、『首』、とても好きです。