善なる者【沈黙のパレード(2022)/邦画】

お友だちの爆推しを受けて見てきました。

ネタバレしてます。

 

前提として、私は映画『沈黙のパレード』の原作者である東野圭吾という作家が好きではありません。なんかもうびっくりするぐらい人の心がない。びっくりする。でも、人の心がない作品を書く作家、という意味ではめちゃくちゃ信用しています。そんな人間が映画を見た感想です。

 

galileo-movie3.jp

 

公式サイト。

あらすじとかはここで。

 

「沈黙は、連鎖する──それは罪か、愛か。」

 

……いやまあ、カッコ良くいえばそうかもしれませんが!?

 

東京のたぶん端の方にある小さな町。その町の住民みんなに愛されていた少女が失踪し、殺害される。容疑者として浮上したのは15年前にも殺人事件を起こし、完全黙秘で逃げ切った男。今回も完全黙秘で逃げ切るかと思われたが──みたいな話だと思っていたんですが。

 

もう、出てくる人間が全員気持ち悪くてびっくりしちゃった! そんなことあるのか!? ぐらいエゴイストのパレードでいやいやいやいやちょっと待ってくれ…ガリレオ映像版に触れるのは容疑者Xの献身ぶりですが、あの時もみんな気持ち悪いな! 怖い! って思ったけど、今回も「全員キモいぞ! 覚悟しろ!」みたいな感じで来られてびっくりしました。

 

「沈黙」することで皆守りたいものがある。自分自身だったり、家族だったり、対象は色々だけれど、結局のところ帰結する場所は「エゴ」でしかなくて、誰も少しも救われない。なんなら殺人を犯した人間すら、その殺人によって何を手に入れたのか、何を守れたのかといえば何も手に入れてないし何も守れてないし、そこにあるのはただ虚無だけじゃないですか。いいのかそれで。相変わらず血も涙もなくてすごい、東野圭吾。(血も涙も〜については劇中でもちょいっとコントのようなやり取りがありましたが、原作者のことじゃんそれ、って思いながら見てました)

 

そんな全員怖いぞ地獄絵図の中でひとり燦然と輝いていた善なる者、この物語の守護神であり十字架を背負ったキリストのような男、それが北村一輝さん扮する草薙さんです。私はもともと北村さんのファンではあるのですが劇場で見るのは久しぶり、50代になった北村さんは若い頃から持ち合わせていた色気と可愛らしさに渋さが加わって、繰り返しになりますが登場人物全員気持ち悪いヤバ空間にひとり健気に光を放っておられました。

 

役どころとしても『草薙』というひとりの刑事の悔恨がなければ事件自体ここまで誰も掘ろうとしなかった(特に湯川は絶対に動かなかった)と思うと、この事件・作品は草薙さんの物語であり、主人公も草薙さんで、草薙さん……草薙さんがいてくれて良かったよ、でも善なる者は常に悪意を持つ者に負け続け、いずれきっとボロボロになってすべてを失ってしまう。それでも草薙さんという人間は刑事で在ることを望む、正しく、善良で、傷付いた者を掬い上げるために手を差し伸べ続ける、その結果自分の手が汚れ壊れてしまったとしても、と思わせる、なんていうんでしょう、とにかく北村一輝さんめちゃくちゃ良かったです。

 

柴咲コウさんより北村一輝さんを美しく撮ってるな…本気だな…みたいな気持ちにもなりました。

 

その他雑惑。

 

椎名桔平さん

後半の気持ち悪いブーストが強すぎて倒れそうになりました。椎名桔平さんのこういう演技大好きなのでもっとやってほしいです。エゴの塊。エゴイスト大賞第一位。

 

岡山天音さん

めっちゃ好きな俳優さんなんですよね。今回も良かった。爽やか好青年と見せかけて、しれーっと高校生の恋人を妊娠させてるのヤバくないですか? 全部他人のせいみたいな顔してるけどきみの責任でもあんねんぞ! ラストのお墓参りのシーンで蝶々が飛んできて大団円みたいな演出にしてましたが、いやちょっと待てそれは……ってなりました。

 

・酒匂芳さん

大好き!!!!! 出てくるとわくわくする俳優さん。いっつも悪役とかクズ役とかばっかりなので(それも好きだけど)、今回の役柄最高だなって思いました。「俺には、妹なんかいない」のシーン泣けてしまった…ラストも…妹さんと姪御さんの分まで、というのは難しいかもだけど、自分の人生を生きていってほしいと思えた数少ない登場人物でした。愛しい。

 

村上淳さん

予告編だとむらじゅんがベストオブキモいみたいな感じだったのに……違った……いや気持ち悪いのは気持ち悪いんですけど、終盤の椎名桔平のヤバさに全部持っていかれちゃってどうしよう。「どうなるんでしょうね」、良かったです。

 

・女性俳優さんの見分けがつかない問題

これ……私だけかもしれないんですけど、全員メイク同じじゃなかったですか? なんで? 全然見分けがつかなくてずっと「????」ってなってました。柴咲コウさんは分かった。それと捜査チームに女性の刑事さん? 鑑識さん? がいるのめちゃ良かったです。

 

・被害者兼ヒロイン

怒られるかもしれないんですけど、新倉妻と揉めるシーンで「キッッッッッモ!!!」って思ってしまっ……て……被害者まで気持ち悪いのすごいななんか、東野圭吾……ってなりました。もうねえ誰にも同情できなかった。オープニングであんなに「みんなに愛される心優しい素敵な少女!」を押し出してたのに終着点がここかよ! 性格悪い!(褒めてます)

 

結論としては草薙さんが主人公でヒロインで唯一の光でただひとりの善なる者。でも善なる者は他人を救うことはできても自分を救うことはできない。そんな気持ちになった作品でした。