りぼんのこと。【老いと建築/阿佐ヶ谷スパイダース(2021)】

※これは2021年11月に吉祥寺シアターで鑑賞した阿佐ヶ谷スパイダース『老いと建築』にて、木村美月さん扮する『りぼん』という人物についてTwitter(X)に流した感想をサルベージしたものです。Twitter(X)から自分が完全に離れた場合、この記事が消えちゃうのは勿体無いな…という気持ちで…。りぼんのこと、今でもめちゃくちゃ好きです。

 

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結子と書いてりぼんだよは『老いと建築』の世界に於ける唯一の純然たる部外者で、その言動は典型的な最近の若者というか、いや最近の若者でもこんなんおらんやろ?というぐらい自由でめちゃくちゃで、登場した瞬間その立ち振る舞いと持ってきた花の気持ち悪さで祖母、ニコ、よっちゃんという女性陣全員から拒絶される。

 

が、彼女は確実に物語を動かしていた、と私は思う。

 

『老いと建築』には有害な男性性を示すキャラクターが少なくともふたり、出てくる。祖母のパートナーであった「あなた」とニコのパートナーであった「えいじくん」だ。「あなた」は芸術家であり「えいじくん」はビジネスマンだったが(だったよね?)、どちらもパートナー以外の女性との関係にだらしがなく(「あなた」についてはエピソードとして描かれ、「えいじくん」に関してはニコ視点の証言のみだが観客を納得させるには充分すぎるほどの描写だった)、身勝手な人間だった。特に「あなた」は中村まことさんが演じていることでなんとなく根はいい人みたいな雰囲気にされてしまってるけど、絶対いい人じゃないからな。いい人は不倫しないし、いい人は妻との話し合いに負けて不倫相手の人格をあそこまでボコボコにしねえんだよ。ここはキャスティングの妙です。お見事。

 

さて置き。

 

これはあくまで私の想像でしかないが、「あなた」「えいじくん」の両名は性欲をコントロールできないという意味でも良く似ていたのではないだろうか。「あなた」は祖母よりも高齢であったにも関わらず若い女性と関係を持ち、「えいじくん」は劇中で語られた通りの暴力行為を行なっている。

 

さてここで一郎である。

 

一郎は「あなた」の息子であり、51歳で独身でソフトモヒカンでフルマラソンで編集者でしょっちゅう恋人が変わり記憶力がなく現在は25歳のりぼんだよと交際している。繰り返しになるが一郎は「あなた」の息子である。たぶん性欲を継承している。というのも、本編中盤に唐突に挟み込まれた祖母とりぼんだよのセックス談義だ。見ている最中はいきなり!? なに!? と思ってぽかんとしたし、トミー(富岡晃一郎さん)演じる一郎が今! 今セックス! て急かしてくるのめちゃくちゃ面白いなと思ってゲラゲラ笑ったけど、冷静に考えると全然面白くない。というかそれは暴力だ。男性主体でのみ行われる性行為。女性のタイミングや気持ちはまったく重視しない。それは、「あなた」や「えいじくん」が行なってきたことと同じではないだろうか。祖母はもしかしたらそれを、確認したかったのではないだろうか。だがりぼんだよの返答は祖母や私が想像していたものとはまるで違った。「おもしろいけど断ることもある」「わたしにも生活があるので!」とりぼんだよはあっけらかんと笑う。りぼんだよと一郎は対等なのだ。祖母と「あなた」、ニコと「えいじくん」が手に入れられなかった関係を、りぼんだよと一郎は作り上げている。
まもなく80歳になろうという祖母の物語である。描かれなかった「あなた」から受けた屈辱や強要もあっただろう。40代後半であるニコもまた、「えいじくん」から明らかに暴力を受けている。基督を妊娠したのはニコの本意だったのだろうかとすら思う。

 

だから、なんというか、りぼんだよはすごい。祖母やニコが苦しめられてきた有害な男性性を主体的に拒否し、その上で一郎と対等に交際をしている。あのセックス談義の後、祖母がりぼんだよを基督に預けるのは、つまりそういうことなのだと思う。祖母が案じているような苦しみをりぼんだよは抱えていなかった。一郎と、ちゃんと一緒にいることを示してくれた。示してくれたからこそ、クライマックスでの一郎の活躍を観客は素直に受け入れることができたのではないかと感じる。深層心理に刷り込まれる見事な演出。りぼんだよの存在の意味。

 

二回目はりぼんだよのことをもっとちゃんと見てみたいと思う。彼女が何気なく口にした言葉で、きっと祖母は救われたと思うから。

 

それから基督が基督で「ノリスケ」なのは、「えいじくん」が父親であるということを否定したいニコの最後の抵抗だったのかなと思った…処女懐胎、キリスト……しかしこの話はまた後日!!

 

(1114に再見したところりぼんだよがセックスを断ることもあると明言する台詞が削られていて、えっ白昼夢…!?と思ってしまいました…同じ日に見た人が周りにいないから確認できない…舞台は生き物なので時折こういうことがあったハラハラしますね)