ある秋の日【遊覧文庫vol.1 下北沢のみち/阿佐ヶ谷スパイダース(2022)】

2023年11月14日の記録です。

大好きな阿佐ヶ谷スパイダースが、11月23日までこのような企画をやっています。

 

asagayaspiders.com

 

企画概要を見た時には驚きました。これは…今年は…演劇ではない…?

でもなんか面白そう。再開発後の下北沢にもほとんど足を運んでいないし、タイミングが合いそうなイベントは覗いてみようかな。そんな気持ちで何枚かチケットを予約しました。

イベントのメインとなっている(と私が感じた)のは劇団員たちによる『ソロ読み』。タイトル通り、阿佐ヶ谷スパイダースの劇団員ひとりひとりが小説とか色々なものを持ち寄って読む企画だと思っていたのですが──

 

◇11月14日16時開演・富岡晃一郎『スチュワーデス物語

 

15時半の開場時刻を少し過ぎた頃に劇場『楽園』に入ると客席はまあまあまばら。平日の昼間ですし。などと思っていたら劇団関係者や富岡さんのお友だち?がいっぱい来てくれたみたいで、開演する頃にはほぼ満席だったそうです。

 

ドラマ『スチュワーデス物語』(私は未見)と原作の『スチュワーデス物語』の違いをさらっと説明した後、ソロ読みスタート。主人公のスチュワーデス候補生も教官も地の文もぜーんぶ富岡さんです。何せソロ読みなので。「50分ぐらいあるかも!」「トイレ行きたくなったら言行ってね」「電話かかってきたら出ていいよ!」というゆる〜い上演前諸注意があったのですが、始まってみたらあっという間の50分。まず意外とソロ読みじゃない! 映像で村岡希美さんが出演してる! さらに主人公女性(富岡さん)との掛け合い相手の教官として村松武さんが映像出演…そ、そんな無茶な…。更に行間を表すため?の謎パフォーマンスコーナーもあり、富岡さんの突然の生着替え(!)もあり、最終的にはずっとスチュワーデスの制服姿(!!)でラストまで駆け抜け、最終的にはファーストテイクまで…こんなに面白くていいのか…という気持ちで拍手しまくってました。ほんとに楽しかった。原作読みたくなりました。

 

アフタートーク村岡希美さん&松村武さんをゲストにお迎えしての『演劇団体のスタートアップを語る』というテーマで、こちらもまた面白かったです。劇団ってどうやってできるのかなぁ、と思ってる人全員に聞いてほしい、富岡さんの『ベッド&メイキングス』、村岡さんの『酒とつまみ』、そして松村さんの『カムカムミニキーナ』の誕生秘話。

個人的には(トークの内容からは少し逸れるのですが)富岡さんのソロ読みステージがあまりに豪華仕様だったため、阿佐ヶ谷スパイダース主宰の長塚さんに「三日ぐらいやるの?」と訊かれたというエピソードと、ソロ読み本編中にシャンパンが暴発したのが演出ではなく本気の暴発だったところがめちゃくちゃ面白かったです。劇場の床、無事でよかった。

 

◇同日19時開演・森一生『「演劇の街」をつくった男 本多一夫と下北沢』

 

舞台上に色々なものがいっぱいあった富岡さんのソロ読みとは打って変わって、テーブルと椅子とMacBook、それに映像投影用のスクリーンがあるだけのシンプルなステージに私服?と思しきさらっとした格好に眼鏡姿の好青年、森さんが登場。

ソロ読みタイトルからして本多一夫さんの半生を追うような内容になるのかな?と予想していたら、まさかの『下北沢』という土地を縄文時代から掘り返す!というめちゃくちゃスケールの大きな講演会でした。そう、これはソロ読みではない…講演会…っていうかソロ読みの定義が何なのか分からないので、森さんの講演会もまたソロ読みで正解なのかもしれません!分からぬ!

 

ダイダラボッチの足跡と思われる池から始まる物語、それに京王井の頭線小田急線が交差することで現れる十字架、結界が張られているような土地…と民俗学に詳しい人ならわくわくして踊り出しちゃうような森さんの語る『下北沢』。私はその辺りあんまり詳しくないのですけど、仏教や神道が日本に根付く以前に存在していた巨人信仰=ダイダラボッチの存在はなんとなく信じているような部分があるので、今もこの、再開発によって変化しつつも常に『下北沢』という特異な空間である場所をダイダラボッチが見守っている、というようなお話をニコニコしながら聞かせていただきました。

そして本多劇場の大将こと本多一夫さん! 『「演劇の街」を〜』を森さんが朗読し、その後ご本人と長塚圭史さん、それに舞台監督の福澤諭志さんが登壇されるというとっても豪華なトークイベントが行われたのですが、なんかもうめちゃくちゃ…めちゃくちゃ面白かったです…うまく書けないんですが本多一夫さんの演劇愛とか、「公共劇場ではできないものを本多グループで受け止める」とか、本多劇場柿落とし公演で唐十郎さんが大量のリアル水を使って階下の飲食店に浸水させたとか(大事故である)おもしろエピソードの嵐…。そして今ブログを書いていて気付いたんですが、本多一夫さんはもう88歳というとってもご高齢。にも関わらずお話しされる際にはすごくハキハキしていて、演劇のことを語るときのキラキラした瞳が印象的でした。お体大切に、いつまでも下北沢にいらしてほしいです。

森さんがおっしゃっていた、本多一夫=ダイダラボッチ(下北沢を開拓し見守る者)というのもあながち大げさな表現ではないのかも……。

 

それから、ソロ読み前には本多スタジオで行われている『遊覧文庫』にもお邪魔してきました。古書を売る幻の書店というコンセプト、とっても素敵です。思わず色々買ってしまいました。最近は本を読むとなると電子書籍ばかりなので、久しぶりに紙の本をじっくり読みたいな〜って思いました。あと、時間が合わなくて出てきてしまったんですけど、紙芝居も見に行きたい!

↑買った本!

 

そんなこんなで『阿佐ヶ谷スパイダース遊覧文庫vol.1 下北沢のみち』、来週まで続くのでお時間ある方にはぜひ遊びに行ってみてほしいです。盆踊りもあるらしいよ!11月15日〜17日は休演、18日から再開です。