父親という虚像【ジャイアンツ/阿佐ヶ谷スパイダース(2023)】

2023年11月16日、初日に見てきました。

まずは二年ぶりの新作の幕が無事に上がってとても嬉しいです。復活してからの新宿シアター・トップスには初めて足を運びましたが、「トップスほんとに復活してる!」という感動がすごかったです。

手が…映り込んでいる…

あと場内めちゃ混み。暑かった〜。

 

てな感じで、この先はネタバレです。

まだ初日明けて今日で二日目。色々変わってくると思うし、でもだからこそ初見の自分の感想を残しておきたい。そんな気持ちで言葉を並べます。何卒。

 

長塚圭史さんという作家は、『父親』を描くとひどく大きく揺れるタイプの作家さんだと思っている。過去作で言うならばやはり『はたらくおとこ』『日本の女』が顕著だろうか。男であり、人間であり、父親であり、夫であり、そしてやはり男である、『父親』の虚像。それが途方もなくうまく成立することもあれば、瓦解していくこともある。私は長塚圭史さんの実父である長塚京三さんが主演した『マイ・ロックンロール・スター』が大変好きなのだが(さすがにリアルタイムで見に行けてはいなくて、人にDVDを借りて見たあと、購入した)(だが購入後二度と見れていない、そういう業火のような作品だった)さて今回は。

 

劇団員であり、『阿佐ヶ谷スパイダース』がまだ劇団ではなかった頃からずっと見ている俳優・中山祐一朗さんが老けメイクで現れた瞬間「あ、長塚さんの勝ちだ」となんとなく確信した。前回の舞台公演の主演は、村岡希美さんだった。村岡さん扮する女であり、人間であり、母親であり、妻であり、そして女である、老女と背中合わせになるような存在、それが中山さん扮する『私』だ。私は、息子の虚像を探して世界を彷徨い歩いている。これはもう劇団のSNSやメンバーの方もはっきりと書かれているので私も書いてしまうと、『ジャイアンツ』の世界で私=父親と息子=あいつは決して出会うことができない。恐ろしいほどに、もう終わってしまった人たちの物語なのだ。

 

冒頭の、どこかぎこちない、けれど幸せな、息子夫婦とその娘が暮らす家に招き入れられた『私』の居心地の悪そうな、しかし幸せそうな、その姿。ここが頂上で。あとは転がり落ちていくばかり。『私』はもう一度、もう一度だけ『あいつ』と『あいつの家族に出会うために』ワインとケーキ(だったっけ?)を持って歩き始めるが、『私』のそばにはすでに『目玉探偵』を名乗る奇妙な男がいて、そう、残念ながらすべては終わった話、或いは夢、「もっと自分のペースで思い出させてくれ!」というような台詞が印象的だったが、無理なんだ。これは2時間あの世界にいたからこそ断言できることなのだけど、『私』と『あいつ』のあいだには決定的な断裂があって、それを埋めることはできない。あいつはもう世界のどこにもいない。どうして? それをあいつが望んだから。もっと他の道もあったのでは? ないよ、父親が、『私』があいつの背中を押したのだから。

 

忘れてしまったのだろうか。目玉探偵の手を借りることでようやく思い出したのだろうか。そこでまた私は『老いと建築』を思い出す。あの時も、村岡希美さん扮する老女の側には伊達暁さん扮する建築士の男性がいて、目玉探偵ほど派手にではなかったけれど、老女の記憶の補完に手を貸していた。今回もまた伊達暁さん扮する目玉探偵・カスミダは中山さん扮する『私』の側に立ち、「あなたの言葉を、行為を、決定的な裏切りを」思い出すのに手を貸す。

 

ちなみにめちゃくちゃどうでもいい話なのだが、キャスト表を見た際長塚圭史さん&伊達暁さんが『目玉探偵』ということで「お! 相棒!」と同い年ペアに期待をしていたのですが、長塚さんの方の目玉探偵が光の速さで「タナカ」という名のゴミ処理場職員になってしまったのがめちゃくちゃ面白かったです。早い、早いよ。『目玉探偵』という存在がそもそも曖昧模糊なモノであることを示すためとはいえ、早い…!!!

 

話を戻す。

『私』は『あいつ』を裏切っている。どうして。父親なのに? でも『私』はもう『あいつ』だけの父親じゃない。再婚もしていて、娘もいる。そう。この世界には、舞台上に出てこない『娘』が何人も存在する。モモコ、エリカ。そこにはいない娘に振り回され、目の前に立つ再婚相手の妻に詰められ、『私』はどんどん『私』ではなくなっていく。驚くほど輪郭が曖昧な、『父親という虚像』に。

 

『私』にも『あいつ』にも名前がある。劇中で何度も呼ばれる。でもクレジットされているのはただの『私』と『あいつ』だ。それ以上にはなれない。この世界の父と息子は。

どうしても『老いと建築』を思い出してしまう。女であり、人間であり、母親であり、妻であり、そして女であるあの老女は、最後に確かに取り戻したのに。父親である『私』は取りこぼしてばかりだ。もしかしたら思い出さない方が良かったのかもしれない。それでも最後に息子に対峙して、思い出して、それで、この先、どう生きますか? ──お父さん。

 

壊れきることもできずに彷徨う『ジャイアンツ』──息子が超えるべき巨大な父親、それでいてもはや手が届かないほどに大きくなってしまった息子を見上げる無力な男──中山祐一朗さんの演技の素晴らしさはもちろんとして、なんかもう何回も『老いと建築』を出しちゃってごめんなさいねなんですが、村岡希美さん扮する隣の大島さんと、富岡晃一郎さん扮する隣の遠藤さん、ヤバ素晴らしかったですよね!!!????

あのふたりがいちばん地に足付いてるんだよな…なんでなんだ…タワマン跡地を見に行こうが、落とし物をしようが、ゴミ処理場の見学ツアーに行こうが、葬式に参列しようが、絶対に大島さんと遠藤さん以外の何者にも変化しない。すごいよこれは。すごい話ですよ。目玉探偵なんてあっという間にタナカになっちゃったのに…。

まじめな話、大島さんと遠藤さんがいてくれなかったらしんどすぎて最後まで見てられなかったかもの気持ちもあります。長塚さんの戯曲のこういう絶妙さがとても好きだ。

 

終わりのお話です。終わりのあとは何かが始まるのかもしれないけれど、もう何も始まらない。ただ終わっていくだけです。初日の私はそんなふうに感じました。あと2回ほど劇場に赴く予定です。感想もきっと変わるでしょう。だから今回は、こういう感想を書かせてください。読んでくれてありがとう。とても長いね。

 

最後に。『あいつ』が最後に、いやもしかしたら人生で初めて『父』のようだと感じたのはきっと中村まことさん扮する『東さん』なのだと思うんですが(『タナカ』になったあとの目玉探偵もそういう感じて接してますよね)、中村まことさんは…はたらくでも、日本の女でも、そしてMAKOTOでも老いと建築でも父であり夫であり…(MAKOTOは違うかなと思ったけどハナコちゃんがいるので父枠です)…すごいなと思いました。それにしても作業着が似合いすぎる。

 

おまけ。

物販豪華!

物販、今作のパンフ、ガチャガチャ、あと過去作品のパンフやDVD、Tシャツもありました。楽しい〜。劇団先行でチケット予約したので(電子)、紙チケももらえました。嬉しい。

 

目玉。

目玉も買った! 演劇の物販でトンボ玉売ってるの見たの初めて! ネックレスにしようかなぁ。綺麗でずっと見てます。

 

そんな感じです。めちゃ長い!